多摩N邸
■掲載誌
・MYHOME+
・最高に心地のいい家をデザインする方法
・世界で一番自分の住みたい家が見つかる本
■設計趣旨
敷地は多摩ニュータウン。春には桜並木となる緑道に面している。この緑豊かな恵まれた自然環境を生かすことが、この家の大きなテーマだ。かつて北米に暮らしていたNさんからも、西部劇に出てくるような大きな庇のある家を要望された。
外観は、銀色の小波板の箱型ボリュームに、奥行きの深い庇が取り付いた形状だ。不整形の敷地中央に、整形の家を建てる配置にしたことによって、家の周りに緑のスペースが生み出され、今では成長した木々が家の目隠しとなっている。
家の南にある庇空間は、奥行きを1間とった大きな縁側のような空間だ。庇の先端にはあえて列柱状に柱を建て、内外をつなぐ縁側の領域感を強調。緑道の風景を借景するこの空間は、ちょっとビールを飲んだり、バーベキューをしたりと、多目的に使われている。
縁側は、1階ダイニングの床レベルより40cmほど高くなっており、内部のベンチと同レベルでつながる。大きな庇を設けたことで、外と中の境界は曖昧となり、内部から見ると、外の空間が自然と内部に滑り込んでくるような印象だ。一方、縁側が一段高くなっているので、内部のプライバシーは保たれ、安心感がある。
ところで、庇の奥行きが大きいと夏季の日射遮蔽には効果的だが、冬季では日射取得熱が減り日中の光熱費の負担が増す。そこで、庇の出寸法によって、取得熱量がどう変わるのかをシュミレーションし、取得熱を確認した。竣工後のNさんの報告によると、高い断熱性能と、太陽熱の利用のおかげで、前の家と比較して、光熱費はかなり安くおさえられているとのことだ。
内部は、縁側のベンチからはじまる階段を基点にして、スキップフロアの床が螺旋状につながる。移動に使うだけの廊下や階段室は極力取りやめ、個室の大きさも最小限にとどめた。その代わり、パブリックゾーンには十分な面積を割り当てた。
家の中で利用頻度が最も高いダイニング・キッチンは、最も眺めの良い縁側空間に向かうように配置。床をスキップさせることで、2階の多目的スペースと、ダイニングは一体感、連続感が生じ、小住宅ながら広がりが感じられるスペースになっている。