2022年11月4日、エクスナレッジより私の3冊目の著書「せんぶ絵でわかる1木造住宅」が発売されます。設計者、お施主、学生など、幅広い層に向けた「絵で見る」木造住宅の入門書です。
木造住宅はここ30年位の間に大きく変わりました。
構造は、大地震のたびに基準が強化され、熊本地震を契機に耐震等級3の適合が叫ばれるようになりました。構造ソフトの利用が一般化し、梁や基礎を設計する際は、許容応力度計算を行うケースも増えてきました。
断熱は、かつての隙間だらけのスカスカの断熱が、厚く隙間なく包みこむ断熱に置き換わり、樹脂サッシ、アルミ樹脂複合サッシが家の開口部の標準になりました。「高断熱高気密」という概念が導入され、壁・屋根に通気層を設けた家があたり前に作られるようになりました。
構法は、布基礎がベタ基礎に、手刻みの軸組がプレカットに置き換わり、筋交いと火打で地震風に抵抗する形式から、ツーバイフォーのように面で抵抗する形式が主流になりました。また厚物合板を使う、ネダレス構法と呼ばれる省力化構法が一般化しました。
それらの変化があまりに大きく多分野に渡るものだったため、現在市販されている構造や断熱の専門書は、最新の構法やデザインに対する配慮が不十分、構法や矩計の専門書は布基礎、根太、横胴縁、和小屋が前提で、そのままでは実務で活用できない、という状況が長らく続きました。
本書は、最新の構造、断熱、構法の考え方と整合性を取りながら、魅力的な住宅をデザインするにはどうしたらいいかを解説したものです。「構造、断熱、構法、デザインをいっぺんに考えたらこうなる」ということを示した、ありそうでなかった木造住宅の教科書です。
本当に大事なものから設計するのが魅力的な住宅を生み出す近道です。殆どの設計者が疑いもなく採用している「間取り→窓→屋根→構造・断熱」という従来型の設計方法では絶対に魅力的な住宅を生み出せません。この本では、「屋根→中間領域→窓→架構→矩計→間取り」という真逆の設計手順を推奨。章立てもその順番通りになっています。
見開き読み切りなので、どこからでも読み始められます。木造住宅の設計中であれば、どんな場面にでも使えるのがこの本のいいところです。
ある時は屋根の形を考える時のアイデア集として。またある時は、詳細図集として。流通材の寸法調査、梁せい算定、n値計算、屋根の架構方式決め、断熱の方式決めなど、あらゆるシーンで建築家手帳的に使えます。索引もあるので探しやすいです。
設計者が必ず悩む、屋根の標準納まりもいくつか載せていますが、屋根通気を取りながら、すべてフラット35の仕様書の仕様規定で、6地域、等級4を満たす断熱性能を持たせています。壁を120厚の高性能GW充填断熱にして、樹脂サッシを組み合わせれば、6地域で、HEAT20G2、断熱等級6をクリアすることもできるくらいの断面です。
ベタ基礎+ネダレス+和小屋の施工手順も載せました。こういう現在最も一般的な在来軸組の施工手順が描いてある本ってほとんどないんです。施工手順がわかんないと材の勝ち負けや仕口形状が決められませんから、どうしても必要な知識です。
断熱上級者向けに付加断熱の組み方も載せました。右の絵は最下段に補助残と呼ばれる材を入れたところがこの絵のミソです。断熱厚が大きくなると、パネリードなどの曲げで効かせる太いビスは極めて小さい力しか受けられないので、階層ごとくらいにせん断でビスを効かせないと壁が垂れる可能性があるのです。
これは天井形状や火打ちや架構の見せ方で決める小屋組+断熱の選び方のフローチャート。これもこの本の完全なオリジナルです。なんとなく気分で決めてた屋根架構も、こうやって選べ間違いありません。
スパン表もこの本のためにつくったものです。スパンと負担幅が455刻みでかわるモデルをホームズ君で作って計算しました。負担幅が1365以上ある時は必ず小梁がかかるから、その断面欠損も考慮するわけです。結果しか載せてませんが、かなり使えるスパン表だと思います。
N値計算もオリジナルです。頻出する、合板片面2.5倍と両面5倍の耐力壁が各階の柱両脇に並ぶ場合、何KNの金物が必要になるか、総当りの順列組み合わせ、出隅8通り、中間28通りの全パターンで示しています。予めこういう一覧表を作っておけば、煩雑なN値計算も間違いません。
建築用語集としても使えるように、冒頭にこんな感じの絵ものせました(上記は原稿です)。建具のとこには、見付、見込み、ちり、戸尻、戸先という用語も説明。用語の一般常識も身につくように。
他の挿絵もほとんどが描き下ろしです。こんなことをやってたらスタートから完成まで3年もかかってしまいましたが、一冊で体系的に木造住宅を学ぶことができる、画期的な木造の教科書になっていると思います。ぜひご覧ください。